東京郊外

はたらけど はたらけど

20260126

仕事終わりに本郷のベト屋でブンをかきこむ。難波優輝、小林美香による「「えっちなこと」を真面目に考える」の講義を聴くため、紀伊國屋書店新宿店へ向かう。19時を過ぎ、参加者はテーブルを囲む形で講義が始まった。先週、『性的であるとはどのようなことか』の電子版を買ったものの、まだ途中までしか読めていない。難波さんの著書は初学者向けだと聞いたけれど、私自身はまだその位置にすら立っていない気がする。無知であることを自覚して、まずは「ペルソナ」の意味を調べるところから。

広告ハンターを名乗る小林さんのInstagramは何年か前からフォローしていた。街中でジェンダーの視点から「これってどうなの?」と思わせる広告を採取し、スクラップしているような投稿で、SNSを外部記憶装置として使っているとのこと。小林さんの活動を知って以来、電車の中吊りやデジタルサイネージ、街中のあらゆる広告を意識して目にするようになった。こうあるべきだという理想としての現代の男性像や女性像がプロパガンダアートのように蔓延している。とくに気になって台頭してきたのが美容外科の広告。「バーキン買うなら豊胸しろ」とか、えっちを通り越して下品すぎる。まず、講義タイトルにある「えっちなこと」という、ひらがな表記がいい。「エッチ」とカタカナになると、おニャン子クラブの『セーラー服を脱がさないで』の歌詞に出てくる、性行為としてのエッチとか限定する意味を連想する。

街中に溢れているえっちな広告。私たちはそうしたえっちなものとの向き合い方が分かっていないのではないか。存在しなくていいと思えるものほど、分析することの面白さがあるという難波さんの投げかけから、小林さんは男性向け脱毛クリニックの広告を紹介。施術スタッフに扮したグラビア女優やAV女優が起用されている。男性はこういうふうに奉仕されるのが好きなんでしょ、と押し付けるような広告を本当に男性自身は喜んでいるのか、と。別の広告として小林さんの知人から送られてきたという、タクシー車内に掲示された週刊ポストの表紙を模したED治療の広告も紹介された。テキストだけなのに不快だった。なぜ不快なのかと自分なりに考えると、カモフラージュしてまで公共空間に浸食しようとする点にある気がする。タクシーは公共であるにもかかわらず、密室でもある。だから広告を前にすると私vs広告の関係になり、一方的に突きつけられる。訴求されていないのだからスルーすればいい、と言われればそれまでだけれど、いやおうなしに視界に入ってくる。

今回の講義の参加者はおおむね男性が多かったけれど、女性も何人かいる前で射精や勃起を楽しむことだけが本当に望まれていることなのか、強さや支配だけを肯定して弱さを否定することにならないのか、そうした男性性についての話に及んだ。印象的だったのは難波さんが「えっちなのは切ない」と語っていたこと。参加者からもそれはどういうことなのか、という質問が出た。難波さん曰く、ヴィーナスの彫刻は完璧すぎて、近づきたいのに近づけない。また、身近にいる研究者の生活は研究か酒を飲むかの二択で、見かねてケアしようにもケアしようがない有り様で、それがえっちなのだと。高尚な美ではないもの、自分よりも完全・不完全なものに憧れと説明していた。自分のなかではあまりピンとこなかった。無理やり理解しようとして、不完全なものに美意識を見出す「侘び寂び」に近いのかとも考えてみたけれど、こうして当てはめようとすること自体が違うのかもしれない。難波さん固有の、私的な美意識なのかも。あと、難波さんが言及していた彫刻家ブランクーシの作品がえっちなのは同意。なめらかな曲線や隆起はえっちだ。単純に人体を彷彿とさせるから。

少し飛躍するけれど、Abemaで配信されている「男磨きハウス」を少し前に一話だけ観た。一話だけでギブだった。合宿生活で材木を調達するために木を伐採する場面がある。チキンスティック田中さんが何かの理由をつけて伐採する作業を回避し、責任逃れをするシーンがフォーカスされる。私は考えが甘いので適材適所、その場面で適任の人が輝けばいいのに、と思ってしまうけれど、社会で生きていくのはそんなに簡単じゃないらしい。他のシーンでも田中さんは集団生活のなかでルールを破り、一人だけ違う行動を取り、場を乱すように見られていた。結果的に連帯責任として罰が課され、他の参加者に迷惑をかけていたことは、男性/女性に関係なく、もっと根本にある人間力、社会性が問われているのではないか、という疑問が湧く。番組タイトルは「人間磨きハウス」のほうがしっくりくる。

かつて、クラスの泣き虫の男子に向かって「男のくせに泣くな」と言い放ったあの頃の自分に言ってやりたい。そのスティグマは大人になってからも誰かを傷つけることがあるかもしれないし、自分で自分の首を絞めることにもなるんだよ。だって大人になってから、最後に付き合ったヘテロ男性に「女なんだから化粧しろよ」と言われることになるからね。

新宿は街全体がエッチだと思う。